白鳥マイカ。シンガーソングライター・白鳥英美子の愛娘でもある。文字通り、その透き通るような天使の歌声は、母親ゆずりのサラブレッド。端正な英国トラッドの風を吹かせるようでありながら、しかしその実、そのストイックな音楽魂からは、どちらかといえば、母・英美子のものより、ずっと毅然とした逞しさを感じる。それは、彼女自身の抱えているテーマや、また、過去アルバム二作に渡ってプロデュースを手掛けている、根岸孝旨の骨太で、スケール感のでかいギターサウンドに裏付けられているからに他ならない。
どちらかというと、心の暗い部分に重きを置いた、独特の赤裸々な歌詞。どこか繊細で陰のある、微妙な高低を繰り返す、巧みなメロディワーク。彼女白鳥マイカの歌声が、透明に透き通れば透き通るほど、切なく響き渡る、ドロドロとした人間の罪悪や醜悪な部分。そこには、甘ったるい愛や恋はない。それらの隠された場所に、声なき慟哭に光を当てるために、彼女の歌声は存在しているとまで、瞬間的に錯覚させる。根岸のギターサウンドは、その等身大の孤高の歌声に力を与える。純粋で、どこか痛々しいほどに研ぎ澄まされた羽を持つ天使は、自らの抑圧された心を、音楽の大きな翼にのせて、新たな地平へと、力強く飛び立たせようとしているかのようだ。
おそらく自身が身をもって体験したであろう、これまでの人生の道筋が垣間
見れるかのような、かざらない言葉の数々。そして自ら奏でるアコースティックギターの自然な音色。それら感情の発露や心のあり方が、ありのままに吐き出されているから、彼女の歌声や音楽性に、深く共感することができる。ときには、ストイックな英語歌詞で、そしてときには、柔らかなひらがなの言葉で。白鳥マイカは、無意識のうちに、この世に存在する痛みやよろこびや希望を、無防備に受信し発信する。その姿は、まるで感度のよい鉱石ラジオ。彼女は、自らの心身を通して、音楽を伝え響かせる生粋の巫女のようだ...
「楽園」「遠幻郷」と、これまで発表されたアルバム二作は、どちらも期せずして?似通ったタイトルに。それは、彼女自身が親ゆずりの天性の歌声と感性をもってして、音楽という自己表現の先にめざす、豊かな世界を暗示しているのだろうか。けれどそれは、天上の清らかで無機質なほどの美しさとは、かけはなれた世界。一見地味だが、じっくり噛めば噛むほど味の出るような、渋みさえ感じさせる音楽世界には、下界の痛みや苦悩(くるしみ)や悲しみを知る、きちんと体温を持ったヒューマニズムがある。その体温は、大空を見上げることしかできない、脆く小さな人間のもの。そして、それらと共に、真っ直ぐに生きるために、道をまごうことなき豊穣の大樹が、しっかりと彼女の大地に根付いている。その汚れた大地に実った、瑞々しくも芳しい楽園の果実は、彼女の真実。不器用だが、決して彼女は、弱くはない。
>>>ホームページ:http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5436/index.html
〜written by 音楽ライターluka 〜
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