青木裕子アーティストレビュー


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「元・グラビアアイドル」といえば、察しがつく方も多いかと思う。’00、かつて一世を風靡したグラビア界を去った青木裕子。あまたの男性ファンから惜しまれつつの引退、であっただろうとは思うのだが(一応女性である筆者は、グラビア時代の彼女について存在自体まったく知らなかったのは事実だ)、一昨年の12月のアーティスト・デビューの際のインタビューなどを読むと、実はグラビアは歌手としてのひとつのステップであり、この世界に入ったのも、音楽の夢へ近づく第一歩であったのだと。そこで、必ずしもグラビアの仕事は、自ら好きでやっていたのではない、という本音が垣間見られた。ミスターチルドレンに憧れ、自らギターを操り、「ICY BLUE」というバンドを組みライブを行っていた時期も。

 そして'02.12月。その名も「Blue」というアルバムタイトルでの、満を持してのアーティスト・デビュー。プロデューサーに、松井五郎と中村仁という二大ビッグネームを迎え、人知れず自身の内面に渦巻く、どちらかといえばダークな音楽世界を大胆に展開している。CD付属のプロモーションDVD映像でも、その独自の世界を積極的にアピール。ある一曲「モノリス」では幻想的に美しく、またある一曲「路上ヘブン」では、アンダーグラウンド的で危うげなサスペンスタッチにて、その内側の破壊的ともいえる一面をさらけ出した。激しくギターをかき鳴らし、搾り出すように歌う、切なげなその表情は、どこか見ているこちらまで、息苦しくさせる。しかし不思議と嫌いになれない。いや、かえって、その突出した渇望的とも思える自己顕示の在り様に、否応なく惹きつけられるものさえ感じるのだ。それは、女性の筆者でさえ。いや、それは女性であればこそ?

 かつて、いたずらに胸元を強調され、"そこ"ばかり注目されてきた、ふくよかな時代の彼女とは一線を画したような、シニカルで鬱屈した少々排他的な、けれど堂々とした痩せたその姿。事実、グラビア時代をさりげなく揶揄するかのような一曲もある(「爪」)。一見、控えめで儚げに見えるようでありながら、その実、ある意味"唯我独尊"といった境地まで表現しようとするかのような、力強く揺るがぬ独自のunderworld。そのギリギリの一線で叫ぶ渇いた魂が、いまにも脆く崩れていきそうな、危険な美しさを醸し出す。だが、その強い磁力のまなざしは、まっすぐに新たな世界をめざしている。彼女がこう!と言えば、必ず従わずにはいられない、ある種、独善的、強制的ともいえる神秘性や魔力さえ、その純粋さの中に秘めていると感じさせる美女...その反逆的な瞳は、男の欲望を誘う切り取られた一部分よりも、ずっと魅惑的で誘惑的だ。

 そんな彼女の姿を、女性心理を描かせれば他に並ぶ者のいないほど、自由自在に巧みに操る言葉たちによって、ケレン味あふれる世界に昇華させる松井五郎。そして、今年ヒットした柴咲コウ・アルバムなどでも垣間見せた、中村仁の幅の広い多種多様な音楽worldの一面がここにも。ある時はアコースティックなバラードに。そしてある時は、ハードロック調に。言葉ではなかなか上手く言い表せられないが、その音ひとつひとつに、注目すべききらめきが、独特のこだわりが感じられる、大人びた奥行きのあるメロディ展開、そしてアレンジ。そこここにあふれる様々な遊び心。

 松井五郎の倒錯に踏み込む一歩手前といった風情の実験的な歌詞も、楽曲同様に広がりのある行間を十二分に感じさせ、独自の美意識で魅了させる。それはそこにある、ただひとつの真実。それらの言葉が、まるで溜息のように、彼女の唇から発せられるその瞬間、異様な陶酔感が生まれ出る。そこにいるのは、儚さの中に強烈な破壊力を秘めた、愛に飢えた眠り姫...ある時は、傷つきやすい純真な乙女のように、そしてある時は、決して男に媚びることのない娼婦のように...まるで鋭い刃のように、よく切れる美貌の凶器。それは、理想的ともいえる女性像であるのかもしれない。そして、おそらく当の女性自身よりも、それらの心理を深く心得ているであろう、洞察力と霊的審美眼を併せ持つ松井五郎の手腕が、ここに遺憾なく発揮されている。

 青木裕子自身のヴォーカルは、決して手放しで上手いというわけではないが、非凡な表現力を持っているのは、決して嘘ではないだろう。おそらくそれは、自身の深い想いに裏打ちされた魂の叫びであるからなのだ。確かに声量などに多少の不安は残るものの、彼女のハスキー気味に囁くような声質を活かした音運びがなされているのも、また事実。それだけ曲のひとつひとつが秀逸なのだ。捨て曲が一曲もないほど、まさに12曲すべてに、卓越した集中力が感じられる。「種子」「愚問」「モノリス」「造花のLily」「爪」「飴と鞭」「化石」「身分詐称」「路上ヘブン」...並んだ数々の曲名から喚起される以上のものを、聴く者を最後まで決して飽きさせない、ストイックでありながら絢爛とした魅力的な作品世界を展開させているのは、見事という他はない。

 これだけのものが"ここに在る"という事実に、一体どれほどの人が気づいているのだろう?...そう思ったのは一時の錯覚なのだろうか。お世辞にも出荷枚数もセールスも振るわず、それでも、いまだそこに存在し続ける音楽への夢。2年前に人知れず発売された、彼女にとって革新的なこのアルバムは、そのひとつの切っ掛けとなり得たのだろうか。それとも、あまりに革命的な第一歩であったがゆえに、彼女自身が、その全精力を傾けて、超えねばならない重い十字架となってしまったのか。

 現在青木裕子は、都内ライブハウスにて継続的に、精力的に音楽活動を続けているようだ。が、いまだ新譜発売の報はない。しかし、ライブで発表しているというオリジナル楽曲が、彼女の未来を暗示しているであろうことは疑いようのない、そして、あらがいようのない事実でもある。彼女の、ぜひとも人生の金字塔を打ち立てたいと願う唯一の希(のぞ)みは、いつの日か叶えられるか。誰かに与えられたものより、作為的に生み出されたものより、それらが本来の光を放つとき、おそらく彼女青木裕子は、真実の意味での歌姫(ディーヴァ)になれるのだろう。

〜written by 音楽ライターluka
執筆依頼に関して


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