◆「ROYAL ALBERT HALL in LONDON /
高橋真梨子」解説 〜
〜ビデオインナーよりお届け〜
●高橋真梨子
<HENRY BAND>
ヘンリー広瀬 Woodwind, Keyboard, Chorus
小松崎純 Keyboard, Chorus
宮本大路 Woodwind
北沢MARO Percussion
佐々木晴夫 Drums
細木隆広 Bass
平田文一 Keyboard
柳沢二三男 Guitar, Chorus
「普通だったでしよう」
ロイヤル・アルバート・ホールでのコンサートが終わったすぐあと、おなじ建物のなかで開かれた打ち上げの会場で、高橋真梨子はそう言った。いつだってそうなのだけれど、この人はコンサートが終わったあと、ほとんどその余韻を残していない。冷静というのでもない。ステージにいる間は、もちろん自分の気持ちを高揚させ、客席を引っ張っていく。だが、どこかで自分自身を見つめている高橋真梨子がいて、冒頭の言葉も、こちらに同意を求めるというより、自分で確認し、納得させるためのふんいきを感じさせるものだった。
アルバート・ホールでのステージは、たしかに "普通"
だった。もちろん良い意味で。1年前のニューヨーク、カーネギー・ホールでの、始めての海外での本格的なコンサートに続き、今度はロンドン。彼女くらいになると二度目だから、すこしは慣れたというような言葉とは無縁である。むしろ一回目のニューヨークの時とは違ったプレッシャーがあったに違いない。前年のアメリカでの成功をフロックにしてはならないからである。だからこそ、高橋真梨子は、普通になろうとつとめたはずだ。だからこそコンサートの始めに彼女は「日本でやっているのと同じものを・・・」と、客席に語りかけたのだ。
ロイヤル・アルバート・ホールは、ロンドンの中心部ハイド・パークそば、バッキンガム宮殿の近くにある。建築されて123年。円形の多目的ホールだ。ドレス・サークルと呼ばれる2階の客席には、イギリス王室の紋章をかかげた王室専用のボックス席があり、ロイヤルの名にふさわしいふんいきを作り出している。そのステージ正面に巨大なパイプ・オルガン。高橋真梨子のコンサートは、そのオルガンによるイギリスの作曲家パーセルの作品の演奏で始まった。イギリスという国と、ホールへの敬意を現してのオープニングである。
このビデオを見ればわかることだけれど、高橋真梨子の表情に堅さはない。ロンドン在住の人たちを中心に、ヨーロッパ、そして遠くアメリカからもやってきた人達は、おそらく初めて真梨子を聴くはずである。客席のほうに緊張がある。それをほぐすように歌が綴られていく。彼女は、歌にアクションをつけない。手を上にあげることさえしない。わずかにマユを寄せ、声の表情だけで歌を作っていく。それは歌の原点だ。収容人員約5000人という大きなホールの後方の客席には、腕やからだの表情は伝わりにくいけれど、声は伝わる。そして当然のことながら、歌の言葉も。当夜アルバート・ホールに集まった人たちは、ひさしぶりに正しい日本語による歌のメッセージを聴いたはずである。もっとも高橋真梨子にしてみれば、いつも通りのステージをやったに過ぎないのだけれど。
このコンサートの最後に、彼女は「これからもできるだけ長く歌っていきたいと思います。」と挨拶した。歌うことに自信と喜び、そして誇りが生まれてきていることが、この言葉からもわかる。これから先、日本以外の土地で、彼女がどのようなコンサートを展開していくのかはわからないけれど、可能な限り、さまざまな土地で歌って欲しいと多くの人びとが感じているだろう。それは高橋真梨子が、いつかは、世界に対して言葉の壁を突き破ってくれる力の持ち主であることを信じているからなのである。
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