◆「TOP HITS UK」解説
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●ビデオインナーより
『ブラー、スーパーグラス、レディオヘッド、サマンサ等の最新クリップ13曲収録!!
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僕がこの仕事を始めてからもう9年近くが経つが、その間、僕はイギリスのアーティストに関する文章を沢山書いてきた。イギリスのアーティストが持っている繊細なポップ観というのはとても好きだし、今でも愛着はたっぷりとある。このビデオを手にしている人の中にも、そんな僕の文章を読んできてくれた人がいるかも知れない。
しかし、ことブラーの『パーク・ライフ』以降、あるいはオアシスのデビュー以降に現れたイギリスの新鋭ロック・バンド達・・・いわゆる最近の"ブリット・ポップ"のアーティスト・・・についていえば、僕は他のどのジャーナリストよりも彼らに対する厳しい批判を投げかけてきた。というのは、巷の盛り上がりに反して、バンド自身やシーン全体がどんどん痩せ細っていっているのが判ったし、それと同時に、イギリスのポップ・ミュージックっていうのはこんなもんじゃないだろ、という気持ちがどんどん強くなっていったからだ。
ではなぜ僕がオアシス以降の新人ロック・バンドに満足できないことが多いのか。その理由というのは、彼らの音楽にロック以外の音楽からの影響がほとんど窺えないところにある。イギリスのポップ・ミュージックというのは、ビートルズやストーンズの時代から、アメリカのブルースやソウル・ミュージックを栄養素にして展開してきた。モッズ・ムーヴメント然り、'70年代のデヴィット・ボウイやロキシー・ミュージック然り。パンクの時代だって、クラッシュはレゲエを、ジャムはR&Bを下敷きに成長していったし、'80年代のブリティッシュ・ポップにしても、レゲエ、ソウル、ラテン、ボサ・ノヴァ、ジャズ等々、ロック以外の音楽を栄養にして大きな成果を生んでいった。ところが、最近のイギリスの若手ロックバンドというのは、そういう素振りを全くと言っていいほど見せてくれないのだ。
おそらくそれは、"イギリス的なるもの"への誤解がそうさせているんだろう。ブラーが売れて、オアシスがブレイクし、イギリスのロック界に活気が戻った。しかし、そこで多くの人達が、"本来はアメリカ音楽を下敷きにしていたイギリスのポップス"というものを無視してしまったんじゃないだろうか。あるいは、音楽のミクスチャーによって生まれるサウンドの面白さ、というものを忘れてしまったか。ブラーやオアシスはソングライティンク゛の才能があるからいいが、そうじゃない人達までが、ブラーやオアシスを真似してしまったら・・・。そう考えると、不本意でならない。実際今のイギリスでロック以外の音楽の影響を感じさせるのは、マッシヴ・アタックやゴールディー、ニコレットといったダンス・フロアと密接な関係にある人か、ポール・ウェラー、ブライマル・スクリーム、オーシャン・カラー・シーンら、ある程度すでにキャリアのある人達ばかりなのだ。
ちょっと話がダウナーな方向に行ってしまったが、この『トップ・ヒッツUK』というビデオ・ソフトを見ても、そこからの出口を見出すまでには、まだ至っていない。しかし、次の時代の扉はいつでもこうした新人アーティストによって開かれるものだし、個々に収録されている新鋭の中から、そういうアーティストが出てきて欲しいと僕は切に願っている。それに10年前なんかに比べたら、イギリスの新人バンドが次々来日できる状況になっている現在だ。この『トップ・ヒッツUK』を見ながら、本当にイギリスらしい良さのあるポップ・ミュージックというのを、あなたも是非探していって欲しいと思う。
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