◆「ザ・ビデオ /
シュガーキューブス」解説 〜
●ビデオインナーより
〜さて、本作はそうした彼女たちのプロモーション・クリップを集めたものである。
初めて本格的にリリースされる映像作品ということになるが、ちょっと前にイギリスでも発売され話題となっていた。シュガーキューブスといえば、そのユニークな音楽性とともにビヨークのある意味ではとてもセクシーな様子も大きな魅力だから、こうした映像の製品化は大歓迎。
ここでいまさらとは思うが、簡単にシュガーキューブスの歴史を振り返っておこう。
ファンの方ならご存知のようにシュガーキューブスは、単に普通のバンドとしてとらえるだけでは視野に収まりきらないところのあるグループである。というのも個々のメンバーが、音楽以外の詩作、演劇といったさまざまな活動を行う過程の一つとして誕生したプロジェクトだからである。
半分ジョークも兼ねてグループが結成されたのは、1986年6月8日2時50分だと彼らは言う。それはビヨークとソーの間に子供が誕生した瞬間だった。
もともとアイスランドで初めてのインディペンデント・レーベルを起こしていたアイナーは、自らPurrkur
Pilnikkというパンク・バンドを、またビヨークもToppi
Tikarrasというグループを結成していたが、その二人にドラムのジギーなどの仲間が加わって83年に作られたのがKUKLという実験的なグループで、彼らは当時イギリスで最も政治的にラジカルな主張を揚げて活動していたパンク・バンドCRASSのレーベルから2枚のアルバムを発表する。
しかしそのプロジェクトは行き詰まり、アイスランドに帰った彼らは、改めてその土地で出版などのプロジェクトに関わる傍ら、自分達が楽しむためというテーマにそって音楽活動を開始する。その記念すべき日がさきほど書いた日付というわけだ。
出版社などをやりながら大学の講師もやっていたアイナーと詩人として本を出していたソーとブライ、絵も書いていたジギー、そして演劇活動をやっていたビヨークの5人が集まってシュガーキューブスが結成され、知り合いのインディ・レーベル、ワン・リトル・インディアンからデビュー・シングル「バースデイ」をリリースしたのが87年9月のことだった。
それ以後のイギリスの騒ぎは、最初に触れたようになかなか大変なものだった。それまで音楽的な興味がもたれることなど考えられもしなかった極点に近い、人工わずか25万人ほどの世界最北端の島国アイスランドが、突如身近な国に思えたりもしたものだ。
グループは、突然あびせられたスポットライトにも関係なく、あくまでも自分達のペースを崩すこと無く88年の夏にデビュー・アルバム『ライフ・イズ・トゥ・グッド』、翌年夏セカンドの『ヒア・トゥデイ、トゥモロー・ネクスト・ウィーク』を発表して、着実に自分たちの世界を広げてきた。90年5月には来日して、そのエキセントリックなステージぶりを見せてくれたものだ。また最近ビヨークは、マンチェスターの808ステイトのアルバムに参加して2曲を歌い、その強烈にコケティッシュなヴォーカルで話題をよんだりもしている。
といったあたりがこれまでのシュガーキューブスの歩みというわけだが、そうしたユニークなグループらしい視点が随所に生かされて印象的ヴィデオ作品となっている。どれも特別大変な予算を掛けたり、無理矢理目立つためのようなことはしていないのに、単に音楽だけを追求しているわけじゃないグループにふさわしいものとなっているところが、彼女たちらしい。
映像は、すべてのスタート地点となった大ヒット「バースデイ」のアイスランド語ヴァージョンからスタートする。
ビヨークの顔のアップをハレーションを起こしたような映像で丹念にとらえているものだが、ふだん聞くことのない言葉の語感と映像の持つスピード感が不思議な絡みを見せて、聞き慣れた曲をとても新鮮なものに感じさせてくれる。苦痛に歪んだ表情で押し絞るような声が、彼女の本当にユニークなキャラクターを伝えてオープニングに相応しい印象的な映像だ。
続く「コールドスウェット」「デウス」「モータークラッシュ」の3曲が『ライフ・イズ・トゥ・グッド』にも収められていたナンバー。いずれもごくごく簡単なストーリー風の設定をしてあって、ストリート・ギャングっぽい作りをした「コールドスウェット」や、タイトルどおり交通事故をテーマとした「モータークラッシュ」などは、何だか学生の作るインディペンデントなフィルムといった感じだが、それもまたいかにもこのグループにふさわしい。
擬似ライヴ風な設定を使った「デウス」は個人的には彼女たちの来日時のステージを思い起こさせるもので、キーボードを加えたバックのサウンドとフリーキーにアイナーとビヨークが叫び、激しく歌いまくる姿がオーヴァー・ラップしてきてしまって懐かしい。
5曲目の「ラフトギター」はアルバム未収録の異色のナンバーで、アイスランドの詩人ジョニー・トリンプをゲスト・ヴォーカルに迎えたもの。スカ・パンク風なサウンドで、モノクロの画像が中心となってパワフルな演奏を聞かせるもので、彼らなりの交友の広がりを見せている。
次の「レジーナ」「プラネット」「イート・ザ・メニュー」は、アルバム『ヒア・トゥデイ〜』に入っていた曲で、ちょっとコミカルな感じのある「レジーナ」や、地球環境に対するメッセージを海底の風景とシンクロさせた「プラネット」、アンディ・ウォーホルの映画のパロディ風な部分もある「イート・ザ・メニュー」など、どれも個性的な映像作りが見られる。
そして最後は、彼らを生んだアイスランドの風景をふんだんに盛り込んだ「バースデイ」となるわけだが、その厳しい抑圧的な北国の環境と彼女たちのサウンドが呼吸しあって、あの独特の音楽が生まれてくることがよくわかるような気がしてくる。
まだまだこれからも音楽シーンだけじゃなく、さまざまな分野でびっくりするような活動を見せてくれるに違いない"角砂糖たち"からの映像でのメッセージは、予想どおり音楽同様に楽しく刺激的なものである。(解説より一部抜粋)
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