◆「"FACELESS MAN" LIVE Vol.2 /
ブーム」解説 〜
御存知大ヒット曲「島唄」で有名なザ・ブームの1994年1月13,14日に行われた日本武道館ライブを収録したのがこのビデオです。タイトルが「"FACELESS
MAN" LIVE Vol.2」となっており
Vol.1もあるのですが、単体で見ても充分楽しめる作品制作となっています! ではこのビデオにインクルードされているインナーから詳細解説をお届け致しましょう!
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『ルーツレスたどればオリジナリティー!
』
5th. アルバム『FACELESS
MAN』は、宮沢が音楽雑誌のインタビューで、「ここ数年、聴き込んでいたアルバムをCDラックから引っ張り出してきて、僕がDJ感覚でランダムにかけて紹介していく。そして、それらを更にチャンプルー(ゴッタ煮)したら今度のアルバムになる予定」と答えていた通り、久保田麻琴、朝本浩文らの好サポートを得て、"チャンプルー"
"DJ" という単語がキーワードとなった。"チャンプルー"
感覚は、沖縄の旋律をジャマイカのラガ・マフィン・ビートに乗せて歌い、更にバリ島のガムランやケチャをスパイスで加えたらどうなるか?
という画期的な試みのもとに作られた「いいあんべえ」に顕著に表れている。"DJ"
感覚は、宮沢がまさに "歌うDJ"
と化して、ファンク、ソウル、ゴスペラ、ラップ、レゲエ、フォーク・・・etc.
を、これまでのアルバム以上にジャンルを問わずに選曲し、CDをかける代わりに自らノン・ストップで歌ってしまっているという姿勢から解る。
ところで、おそらく、この多重人格的な要素を含んだ『FACELESS
MAN』のサウンドを聴いた者ならば、ニュー・アルバムをリリースする度に、「アルバムと、そのツアーで、ワンパッケージというか、1つの作品だと思っている」と発言している彼らの、今回のコンサート(=TOUR
"FACELESS MAN" )に興味を抱くのではないだろうか。
ガムランやモンゴルのホーミーのSEが流れる中、ステージ上に組まれた巨大なバリの寺院を模したセットが真っ二つに割れ、オープニング・ナンバーの「いいあんべえ」が始まる。THE
BOOM
のコンサートを観た経験がある者なら、まず始めに、宮沢のシルバーのライダーズ・ジャケットに、揃いのシルバーのパンツという派手な衣裳に驚かされるだろう。これまでの彼は、モッズ・スーツやジャマイカン・スタイル、あるいは普段着(タンクトップにジーンズ)といった恰好で、あくまで
"ロック的"
なものに徹底してアレルギー反応を示していたのだから。だが、今回のこれはおそらく、自虐的に普段の嗜好と全く逆のベクトルに振り切ることによって、2年前の
"出前ツアー" で彼が客席に向かって、「もっと自由に! THE BOOM
からも、宮沢和史からも自由に!
」と呼びかけていたように、彼自身が "宮沢和史"
から自由になるための選択なのだ。このコンサートに懸ける意気込みは、そんな変化からも明確に伝わってくる。
サウンドの面は、キーボードに準メンバーともいえる鬼才・朝本浩文、パーカッションはバナナ・ギャングスの伊藤直樹、トランペットに有澤健夫、サックスは竹上良成、ダンス
&
コーラスで南流石(振り付けも担当)、前田康美というラインナップで固めている。サポート・メンバーを増強したとはいえ、かなりシーケンサー等が導入されると予想されたのだが、実際には大半の曲を完全に生演奏で押し切っている。BOOM
のメンバー各人のテクニックやサウンド・センスの向上はもちろんだが、サポートの人選及び構成、特にパーカッションを加えリズム隊を強化したのは正解と言えるだろう。ファンク調になった「僕のヒーロー」やアシッド・ジャズのグループで踊らせる「誰も知らない」、間奏でアンビエント・ダブの世界に引き込まれる「子供らに花束を」といった旧曲は現在(いま)のエッセンスを注入することによって見事に蘇生。『FACELESS
MAN』からのナンバーもライブ用にリ・アレンジがなされて、アルバムの
"再現" というよりも、完全に "再構築"
という様相を呈している。
また、サウンドと同時に注目すべきは、やはり、約1ヶ月間のリハーサルを行ったというダンサー達のフィジカルな動きだろう。前述の南、前田に加え、ヒップ・ホップ・ユニット=クレイジーA
&
ポッセを率いるクレイジーA、そして彼と共にロックステディー・クルー・ジャパンというチームで活動しているチノ、コージ。それに、フィリピンから参加した、宮沢が
"ナガランド"
で出会ったアンディーと、そのパートナーであるアーノルドという総勢7人。彼らが織り成すフォーメーション・プレイは、その独創性も合わせ実に見事で美しい、「いいあんべえ」に見られる細やかなアジア的な動きから、「YES
MOM !
」に代表されるヒップホップ系のストリート・ダンスまで、そのレンジの広さは驚嘆に値する。また、それぞれのダイナミックな個人技も見逃せないところだ。
'93年は「島唄」のメガ・ヒットもあり、THE
BOOMが広く一般層の支持を得た年となったが、その一方で『FACELESS
MAN』というアルバム及びツアーで、ポップかつ今後の彼らにとってエポックとなるような活動を続けているという、非常に振幅の大きい1年だった。
急成長を続けるTHE
BOOMの未来は計り知れない(それは、おそらく彼ら自身にも)。『FACELESS
MAN』では "俺たちにはルーツなんてないんだ"
とした彼らだが、いつまでも "顔がない"
まま安住しようという気は、おそらくないだろう。彼らは未だ、音楽活動という長く険しい旅の途中なのだ。ごく最近の発言の中で宮沢は「自分のリズムを見つけたい」と力強く語っている。ルーツがないという事実をルーツとして、唯一無二のオリジナリティーを確立していくということ。彼らが今後目指すべき地平は、まさに
"そこ"
にあるのではないだろうか。そう、このビデオの「いいあんべえ」ラップ部分で、既に宮沢が
".ルーツレスたどればオリジナリティー! "
と歌っているように。
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ではアジア・パワー全開の、ザ・ブームのアジア大陸のような壮大なライブショーを存分に御堪能くださいませ。ビデオ見ているその場所にアジアの風が吹き抜けるでしょう!!
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